提案最終審査 総評
本アワードは今回9回目を迎えました。各提案は例年の中でも非常にレベルが高く、ビジネスデザインの成熟を感じさせる審査会となりました。企業の持つ技術を形にするという点においては、高いレベルで表現されており、最終審査では主にビジネスデザイン部分について議論が費やされました。コロナ禍により、企業とデザイナーの協議もオンラインが中心となりましたが、その状況下でも両者協力しながら準備を行ったことが伺え、支障を感じさせない完成度の高い内容でした。
産業構造の変化やコロナ禍におけるライフスタイルの変化など、時代が転換期を迎える中、デザインの役割も見直されてきています。今回はビジネスデザインにおける二つの方向性が明示されました。一つは「企業の持つ技術を応用し新しいビジネスをつくる」というもので、新規ビジネスにより新たな市場をつくり発展させていくというベクトル、もう一つは「企業の在り方、価値をデザインする」というもので、企業の持つリソースを組み立て直し、事業をサスティナブルに継承していくという方向性です。最優秀賞の「オンデマンド印刷の新しいカタチ」 、優秀賞の「特殊ラベル印刷技術を用いた新しい遊び体験の提案」は、前者の役割において高く評価されましたが、ビジネスの継続や価値の維持に課題があり、それらを補うために製品のファンづくりや、彼らを魅了しつつ継続的なビジネスを行う仕組みづくりにアイデアを投じてほしいと思います。一方、優秀賞の「東屋ビジネスデザインプロジェクト」は後者の役割において評価が高く、マッチングから短期間で企業が抱える問題点を緻密に分析して、提案性の高いビジネスメーキングが行われました。
前者の役割は例えるならビジネスの外側をつくる建築家のイメージで世の中の注目を集めインパクトを与えていきます。後者は内部をケアする内科医のイメージで、経営や収益体制を整え健康な企業体を維持することで、ビジネスを長く継続していくことができます。中小企業においてはどちらも大切な役割であり、ビジネスデザインの領域においては双方にアプローチできる価値あるデザインが多く生まれているという点を伝えていきたいと思います。
2020年度 東京ビジネスデザインアワード審査委員長 廣田尚子
2020年度
東京ビジネスデザインアワード
審査委員長 廣田尚子
審査委員長挨拶
2020年春、新型コロナウィルスの影響によりこれまでの常識を遥かに超えて、わたしたちは意識変革を余儀なくされました。しかし、変わることで乗り越えよう。今は知恵を絞って次への準備をしよう。企業とデザイナーの異なる視点を掛け合わせ、知恵を共有して視座を広げよう。自社の中にある意志・価値・構造を見つめ直し、次の社会が求めるアプローチを模索しよう。つまり「その企業らしい」新たなビジネスで社会に寄り添い、感動や快適や幸せを提供して困難な時代を乗り越えよう。
東京ビジネスデザインアワード(以下TBDA)では、2012年の立ち上げ当初から、企業の経営に広い意味のデザインが必要なことを様々な形で伝えて参りました。困難な今こそ、デザインの柔軟な思考力が期待されます。デザイナーやデザイン会社が、ビジネスデザインへ踏み込んでくださることを求めています。それは本来のデザイン専門領域から経営戦略・企業ブランディング・コンサルティングまで領域を広げ、ビジネスの文脈全体をデザインすることです。企業のビジネスが回り続けるための外部エンジンとしてデザイン会社が機能することが、TBDAが目指すビジネスデザインです。
変わることで継続しよう。これまで抱えてきた弱みや課題を洗い出し、信頼する人材や技術の強みを新しい価値へ繋ぎ変えよう。モノやサービスを売ることよりも大切なビジョンを携えて、その価値を戦略的に伝えて市場を作ろう。
デザインは問題や強みを見極め、課題解決の方法を時代に合わせて柔軟に考え実動する技術です。TBDAは企業とデザイナーをマッチングして、ビジネスの描き方を変える仕組みです。中小企業の技術を起点に、「その企業らしさ」に焦点を当てて新しい価値を押し出していきます。さらにデザイナーとの協業を通して、企業経営者自身がデザイン的な思考を経営に取り込み、自社をブランディングする舵取りを行っていただくことを目指して年間プログラムをご用意しています。
デザイナーと企業人が、デザイン技術を共有して経営を変える時代へ。私たちは一歩踏み出す勇気を抱いて頂ける場として、みなさまのご応募をお待ちしています。
2020年度 東京ビジネスデザインアワード審査委員長 廣田尚子
2020年度
東京ビジネスデザインアワード
審査委員長 廣田尚子